よりよく生きていくためのツールとしてのカウンセリング 〜弓田千春先生〜

心理学って、カウンセリングって、なんだろう?

「カウンセリング」や「心理学」と聞いて、まず頭に浮かんだのが「?」だった。

常日頃、人間は人間のことをずっと考えて悩んでいるのに、それでもわからないことだらけだからだ。それなのに「学問」として成り立ち、「人のこころ」を理解しようと試みているという。そもそも「人のこころ」というものが一体どんなものなのか、目に見えるものなのかどうかさえわからないものを、どのように捉えるというのか。まるで夢物語ではないか。

これは、高校生の頃の私が思った「心理学」の第一印象だった。

「わからない」から「わかりたい」

あれから紆余曲折あり、心理を学んで18年が経つ。初めて心理学に触れたのは18歳の頃だった。あの頃の私からしたら、まさか自分が心理士として働くとは思ってもいないことだろう。そして今、私が心理学と向き合うことで得たのは「わからないということを、わかること」だ。

心理学を学んだことで、「A=Bである」というような、「人間について明確に規定できる何かを得た」ということはない。むしろ学べば学ぶほどに「人のこころ」の多様さを強く感じている。そもそも人のこころは「わからない」ことであり、「わかりたい」と思うことが必要だということを「わかっている」ことが心理学である。心理学では、カウンセリングという方法を使って自他のことを「わかりたい」と思ってアプローチしているのだ。

もっと身近な存在へ

カウンセリングは、自身にしかわからないこころの中を整理しながら、一緒に答えを探し出す作業だ。自身のこころの内を言葉にして口にすることで、自分の内側を外側に表現し、カウンセラーと話すことで、言葉とその意味を自身の腑に落とし、再度取り込んでいく。

そう思うと、カウンセリングという方法は、世間で言う「病んで」いるかどうかは問題ではなく、自分や他人の「こころ」について考えたいときに使うものではないだろうか。カウンセリングでは、常にその人の日常と現実がテーマになっている。だからこそ、自分の「こころ」を「わかりたい」ときに使う「ツール」になるのではないだろうか。メンタルケアとしての役割はもちろんだが、「自分の人生をよりよく生きていくためのツール」としてのカウンセリングも理解されてほしいと思っている。

弓田千春

Profile
資格/臨床心理士、公認心理師、第一種教員免許
経歴/大学で自然環境を専攻していたが、転科し心理学科へ。子どもから青年期のアニミズムや自尊感情の発達について研究しつつ、2008年より学校臨床へ。スクールカウンセラーとして思春期・青年期のご本人と親御さんのカウンセリングを行う。現在は、大学の相談室にて研修指導員兼相談員としてカウンセリングを行っている。
専門分野/思春期・青年期以降にみられる心理的問題、学校臨床
所属団体/日本学校メンタルヘルス学会