従業員の職場不適応を防ぐ、一次予防に基づくメンタルヘルス 〜井ノ口諒先生〜

自社の施策が二次予防、三次予防につながる

労働契約法第5条を根拠とする安全配慮義務が、事業者(使用者)に課せられています。当該義務を履行するために、事業者(使用者)はストレスチェックや定期健康診断を実施したり、健康管理室に相談員を配置したりしています。

これらの措置が、従業員の心身の健康に貢献しないとは言い切れませんが、費用対効果はどのくらいでしょうか?また、組織にどのようなメリットがあるのでしょうか?

メンタルヘルスの基本は一次予防ですが、改めて考えると、自社で実施している施策などが二次予防、および、休職者支援を中心とする三次予防になっているケースは非常に多いです。

対個人の支援の大半は、一次予防に該当しない

一次予防に該当するメンタルヘルスの一例として、以下に示す対応が挙げられます。
・従業員のコンピテンシーと担当業務の一致度を見直す
・従業員の(ストレス)コーピングをアセスメントし、必要に応じて、当該従業員にスキルトレーニングを施す
・うつ病といった精神疾患の啓発活動を実施する
・自社が必要としている人材をパーソナリティやスキルといった観点から明確にし、組織の新陳代謝を図る

対個人という形式のみで実施できる支援の大半は、一次予防に該当しません。事業者(使用者)が一次予防に注目して安全配慮義務を履行すると、休職者が減る、従業員の生産性が上がる、自社に残ってほしい人材が定着するといったメリットが生じ得ます。また、面接指導やカウンセリングといった労務が担うサービスのみに焦点を当てるのではなく、人事や経理、総務などが担当している業務とメンタルヘルスに関する施策の関連を検討すると、従業員の職場不適応を防ぐことができます。

井ノ口諒

Profile
資格/(財)日本臨床心理士資格認定協会臨床心理士、公認心理師
経歴/駒澤大学大学院人文科学研究科臨床心理学コース卒業、金融機関に数年勤務した後に臨床心理士の資格を取得。現在、大塚クリニック(稲毛)心理士、総合心理教育研究所・東京セリエセンター非常勤研究員。また、複数の企業・官公庁・医療機関などで、セミナーや研修の講師を担当
専門分野/適応援助を目的とする心理面接全般、職場適応および職場復帰の支援、夫婦・家族関係調整の支援、青年~老年期の発達障害の自立と就職(キャリア形成の支援を含む)、モラハラ・パワハラ・セクハラなどのハラスメント問題からの回復および対応、ギャンブル・買い物・過食などの依存問題からの回復および対処
所属団体/日本臨床心理士会、東京臨床心理士会、日本家族研究・家族療法学会